お前が電話してきたから絶対入金しない! 「督促OL修行日記」

この本は、クレジットカードの督促業務を行うこととなった普通のOLのサバイバル日記である。

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理不尽な債務者たち

著者は、学校を出てクレジットカード会社に勤めたところ、支払がされていないユーザに対する督促を行う部署に配属される。
業務内容は、督促の電話をかけることである。

「お金返してください」ーーああ世の中にこれほど、誰ひとりとして望んでいない電話があるだろうか。
でも、その電話こそが、私がこれからしなければならない「督促」という仕事だった。(19頁)

そんな電話に対し、金を払わないユーザたちの反応は、理不尽きわまりない。

怒る

まず怒る。怒るヤツはたいていろくでもないヤツだが、滞納者の怒り方はとくにひどい。

「オイコラ!!どうなってるんだよ-!!」(88頁)
「カードが使えねぇじゃねえか!どうにかしろ!!××××、○○○○!!」(89頁)

自分が支払を滞納したからこうなっているのに、どうして怒れるのか、意味が分からない。客観的に見れば頭がおかしいとしか言いようがない。
しかし、オペレーターは、そんな頭のおかしい言い分にまじめに対応しなければならないのである。

脅す

次は脅しである。滞納者たちは、滞納しているくせに、オペレーターを脅しにかかる。

「今からお前を殺しに行くからなーー」
お客さまはそう言うと、プツリと電話を切りました。(10頁)

「わかった。そこまで言うなら、直接会って話そうじゃねぇか。N本とかいったな。今から高速飛ばして行くから待ってろよ!」(54頁)

「ああ。今、XXインターまで来た。もうすぐ着くからな」(56頁)

「お前の会社に爆弾を送った」(58頁)

バカじゃないだろうか。
しかし、オペレーターは、そんなバカの脅し文句を聞かなければならないのである。

「今から行く」と言って本当に来る人はほとんどいないようだが、こんなバカに実際に危害を加えられたらたまったものじゃない。

説教する

そして、説教する。

ある時、50代の女性に督促の電話をかけた際にこんなことを言われた。
「こんな人を不愉快にするような仕事、しない方がいいと思いますよ!!まじめに働きなさい、まじめに働くことだけを考えなさい!」(136頁)

お前がまじめに金払え!」と返す速さを競うべきところだ。
しかし、オペレーターは、この説得力ゼロの話を、反論せずに聞かなければならないのだ。

意味不明なことを言う

さらに、意味不明な論理で反論する。

「今日入金しようと思ってたんだよ!あーもー、お前が電話してきたからやる気なくなったわー、頭に来たからもう絶対入金しないから」(142頁)

理不尽すぎる。
これが日本の現実だと思うと絶望的な気分になる。
オペレーターの心が壊れて当然である。

使い捨ての感情労働の現場

こんな業務を毎日行っていれば、オペレーターは心身ともにぼろぼろになって当然である。
クレジットカード会社は、そんなオペレーターをどんどん使い捨てていく。

でも実際、異動してみると、そこで行われていたのは、おおげさに言うと人の消費や使い捨てのような労働だった。(131頁)

この本は、著者の性格が反映しているのか、暗い話も全体的に明るい調子で書かれている。そのため、あまり深刻にならずに読めてしまう。
だけれども、書かれている内容をよくよく考えると、かなり深刻な話である。

ある日、お昼休憩に抜ける途中、ふと私がオペレーターブースの一角を通りかかった時のこと。
区切られたブースに座る一人のオペレーターの女性が、はらはらと涙を流しながら電話をしていた。(129頁)

私が慌てて手を叩くと…すぐに男性社員が飛んできてオペレーターからヘッドフォンとマイクを取り上げて電話を代わってくれた。
泣いているオペレーターは別の女性社員が付き添ってコールセンターの外へと連れていく。でも、彼女の周りにいるオペレータはちらりと彼女を目で追った後、何事もなかったように電話を続けている。もうコールセンターではこういった出来事は日常茶飯事なのだ。
(また、一人ダメになったなぁーー)
ぽっかりとひとつ空いてしまったブースに注がれるのはそんな冷やかな視線だった。(130頁)

出社して朝イチで取った電話で、オペレーター本人やご家族から退職の申し出を受けることも珍しいことじゃなかった。(131頁)

大げさでも何でもなく、文字どおり使い捨てである。
人生が嫌になる職場である。コールセンターの人員募集に人が集まらないのも当然である。

こんな仕事が本当に必要なんだろうかと本気で思ってしまう。こんな仕事はなくしてしまった方が世のため人のためになることは明らかである。

こんな督促の電話はそもそもする必要がない。自動発信の自動音声でいいではないか。単に忘れているだけなら気づくし、それでも払わない人は客じゃないから回収できるだけ回収してサヨナラすればよいのに。何でこんなことしてるんだろうか。クレジットカード会社が人件費と労力をかけてわざわざこんなことをしている以上、こんな不良債権でもオペレーターが電話で督促することで回収できれば、それだけの利益が得られるのだろうか。そうであれば、やめさせるには、人件費を上げるしかないのかも知れない。

生き残る知恵

著者は真面目な人のようで、私のようにただ理不尽を嘆きくだけでなく、理不尽の存在を認め、その中で生き残るための努力をはじめる。

もう少しなんとかならなかったの?もう少し負担を減らせる方法があったんじゃない?とコールセンターで働く誰かが辞めていくたびに悔しく思った。
よしじゃあ、いっちょ、実験しよう、と思った。
幸いなことに(?)私は督促が苦手だった。自分で言うのもなんだけど、心も体もボロボロだった。
私が督促できるようになれば、お客さまに言い負かされないようになって、お金をちゃんと回収できるようになれば、そのノウハウはきっと使える。(136頁)

この本が描く督促の現場はなかなか深刻だが、著者のこのような性格によって、読者があまり深刻な気持ちにならないようになっている。

本書では、そのような著者が督促の現場で身につけた督促の知恵がいくつか紹介されている。

約束の日時は相手に言わせる

これによって、相手が約束を破った場合に相手の罪悪感を刺激することができるそうだ。何の強制力もない電話での督促では、このような些細なことでも武器として使えるのだろう。

要求せず質問する

人間の脳は疑問を投げかけられると、無意識にその回答を考えはじめるそうだ。
著者は、その知見を活かす。
「支払ってください」と要求するのではなく、「いつであれば入金可能でしょうか?」「いくらであれば入金可能でしょうか?」と質問した方がよいという。
そうすると、相手は、自然と質問について考えだし、いつであれば/いくらであれば払えると回答するようになるという。
これによって、「約束の日時を相手に言わせる」ことにつなげられるのだ。

付箋を読む

人は突然怒鳴られるとフリーズしてしまうものだ。
そんなときは、付箋を読めば良いという。

「私、クレームとかでお客さまに怒鳴られると、とっさに言葉が出てこなくて、何も言えなくなっちゃうんです。だから、そういう時はこの付箋を読むことに集中するようにしているんです」(155頁)

これに近いことは自分もやっている。面倒なヤツに電話するときは話す内容やキーワードをメモしておき、言葉が出なくなったらそれを読むのだ。

いずれにしても、こんなテクニックが必要となるとは、なんとも過酷な現場である。

他にも様々なテクニックが

このほかにも、怒られないしゃべり方足つねりツンデレ督促「謝ればいいと思っているんだろう!」と言われない謝り方、などなど、著者が実践の現場で得た督促テクニックが各所で紹介されている。
どれも、現場に身を置く者にとっては命を救う知恵であるに違いない。

よいこともある

なにもメリットがなさそうな督促の現場だが、よいこともあるという。

ところが「督促道」を身につけるにつれ、不思議と長らく曇っていた目から靄が取れ、瞬時に「あ、この人はだめんずだ」とわかるようになった。まるで長らく債権回収をやっていると、人を見て「この人借金してる」とわかってしまうように(ある意味近いのかも)。(214頁)

そういう人が目を覚ますためには良いのかも知れない。他にもっとましな方法がありそうな気もするけれども…。

すべてが間違っている

この本の著者は、理不尽を嘆くのではなく、理不尽の存在を認め、理不尽の中で生き残ろうと努力する。

そのような著者の姿勢が、なおさら読者の正義感を刺激し、「そもそもこんなのは間違っている」という思いを強くさせる。

使い捨ての感情労働に対する問題意識を確認したい人におすすめの本である。