ミニマリズムのその先の世界 「オランダ式倹約セラピー」

この本は2001年の本であるが、その後の私の人生を変えた本である。

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なぜオランダ式なのか

オランダ人はケチで有名なのだそうだ。

オランダ人の倹約家ぶりは,“ゴーイング・ダッチ(オランダ人式で行こう)”という言葉があるとおり,つとに有名です。(4頁)

この本は「禁煙セラピー」と同じシリーズなので「セラピー」というタイトルになっているが、内容は全然セラピーではない。
また、「倹約セラピー」というタイトルではあるが、倹約に関する本というよりも、生き方に関する本である。
この本に書かれているオランダ人の生き方は、読者の生き方にも様々な示唆を与えてくれる。

人間は奇妙な存在だ。

この本で最もすばらしいのは、倹約に関する話ではなく、オランダ人が口癖のように言う言葉である「It's normal」についてのコラムである。
このコラムでは、オランダ人が、どんなに変わった状況でも「It's normal」と言って、見て見ぬふりをする様子が語られている。

こと感心するのは,オランダ人はおしなべて“見て見ぬふり”ができるという点である。(98頁)

ここでいう「見て見ぬふり」というのは、悪事を見逃すとかではない。変わった人がいても、変わったことがあっても、奇異な目で見たりせず、何とも思っていない振りをするということだ。他人に関心がないわけではなく、実際には気にしているんだけれども、何とも思っていない振りをするのだ。

聞くところによると,オランダ人は「人間は普通に行動しているだけで充分に奇妙な存在だ」と教えられて育つらしい。その話を聞いて,彼らが口癖のように“It's normal”を連発する所以が多少なりともわかったような気がした。
どうりで他人が何をしようと,どう思っていようと,「お好きなように」なわけだ。(98頁)

人間は普通に行動しているだけで充分に奇妙な存在だ

本当に素晴らしい言葉だと思う。
自分の生き様を変えたひとことである。
実際、その通りだ。
自分は変なんじゃないかというような悩みとか、何かを恥ずかしく思う気持ちとか、コンプレックスとか、他人に対するフラストレーションとか、そういった思春期的な問題が、この言葉に出会ってすべて解決されたような気がする。
人は普通にしていても充分に奇妙な存在なのだ。もともと変なのだから、鼻毛が出ていたとしても、歯に青のりが付いていたとしても、チビでも、デブでも、ハゲでも、ブサイクでも、短足でも、貧乳でも、大して変わりはない。もともと変なモノがちょっと違った感じの変なモノに変わっただけだ。いずれにせよ変なことに変わりはない。
変な人に出会って嫌な思いをしても、人間はもともと奇妙な存在なのだから、とくに引きずって悩むこともない。

また、こうやって見て見ぬ振りをすることは、その人の自由を尊重することでもある。奇異な目で見たり眉をひそめたりするのは、その人を非難し、居心地を悪くさせ、排除しようとするアクションである。それは、その人の自由を認めないというアクションである。どんなに変な風貌の人であっても、どんなに変なことをしていても、それが悪いことでなければ、何とも思っていない振りをしてスルーするのが、その人の自由を尊重することなのだ。
真のリベラリストとはこうあるべきだ。

オランダ式はミニマリズムのその先

この本は2001年の本で、当時はミニマリストなんて言葉はなかったが、この本に書かれているオランダ人の生活はまさにミニマリストだ。必要最小限のものしか持たない。

かくしてオランダ人は,必要最小限の大好きなものばかりに囲まれて過ごす贅沢を味わいたいがために,日々の慎ましやかな生活を黙々と遂行していくのである。(40頁)

ミニマリストはモノを最小限にするので、服や食事にかけるお金まで最小限にしないと思うが、真のミニマリストたるオランダ人は、衣食にかけるお金も最小限である。

毎日の衣食に関してお金をかけるオランダ人は,ほとんどいない。「衣食にお金?かけてますよ」と言うオランダ人はさらにいない。彼らは実直なうえ,衣食に時間とお金を費やすことをバカげているとさえ思っているのだから。(24頁)

20年以上前のスキーウェアでも着続ける。お客さんにもコーヒーは出すがお菓子は出さない。ハムもこれでもかというほど薄く切る。
これは、そういう人が多いというレベルの話ではなく、オランダ国民みんながそうなのだ。

事実,現在デパートのキッチン用品売り場でハム・スライサー(ハム専用スライス機)が売られているが,一ミリよりまだ薄い設定の目盛りがあるところを見ると,「これでよし」という国民の強い意思とメーカーの自信がうかがえる。(48頁)

ただし、家には、お金をかけるのだそうだ。

では,何にお金を使うのか。衣食にお金を使わない,となれば,残るは“住”である。これに関しては,見事なまでの使いっぷりを披露してくれる。オランダ人のもっとも重要な買い物は,単純明快,“家”なのだ。
家に対する執着心は,日本人のそれよりもずっと強いように思われる。(31頁)

お金を惜しまずに居心地のよい家をつくり、その家で最小限の好きなものに囲まれて暮らすのがオランダ人なのだそうだ。
優先順位がはっきりしている。幸せとは何かについて確信がある。とても素晴らしいと思う。

ものは使い切る

オランダ人はものを徹底的に使い切る。必要でないものを買うことに罪悪感を感じるそうだ。

ひとつのものを擦り切れるほど使い切って,やっと次のものを買う。リサイクルできる不要物は,リサイクル・ボックスに入れるために外出する手間をいとわない。それが日常化しているため,壊れかけたもの,要らないものを“捨てる”機会はなかなか巡ってこないのだ。(22頁)
オランダ人はじつに“モノ持ち”がいい。ひとつのモノをボロボロになるまで大切に使う。いや,ボロボロにならないように大切に使っている。そもそもすぐにダメになってしまうモノは買わないし,どうしても必要でないモノを買うことに罪悪感を持っているようだ。(54頁)

靴下に穴が開いても捨てない。縫って穴を塞げば使える。
コートに穴が開いても捨てない。寒さをしのげるのであればそのまま着る。
必要性が生じない限り、買わない。
素晴らしいと思う。
自分もオランダ式を見習って、1999年に買ったプーマのジャージを未だに使っている。ただ古いからという理由で捨てたり、新しいジャージを買ったりするなんてオランダ式ではあり得ないのだ。

たとえ不要になっても捨てない。それを必要とする人に売ればよいのだ。
著者の友人のスーザンは、自転車の荷台に付けるカバンが不要になったので、売ることにしたそうだ。

耳を疑った。見れば,スーザンが通学に使っていたであろう紺色の鞄(鞄というより袋といった感じだ)があり,かなり使い込んだ様子がうかがえる。これを売る気なの?これでは五ギルダー(五〇〇円相当)でも買う人はいないだろう。
それより,五ギルダーのために,わざわざ背景のキレイな公園まで来て撮影し,現像し,掲示板に載せ,家まで見に来る人に説明する手間ひまを考えると,捨てた方が早いのでは……と思ってしまった。(80頁)

捨てないためには労力を惜しまない。
ヤフオクとかメルカリとかのおかげで、こういうオランダ式も実践しやすくなった。メルカリなんか見てると、こんなもの誰が買うんだというものも売られているし、そんなものを買う人もいる。本当に良い方向に進んでいると思う。時代はオランダ式にようやく追い付きつつあるのだ。

買う前によく考える

オランダ人は、買う前によく調べて、よく考えてから買うそうだ。
買うものを探しに店に行くようなことはないらしい。
著者が空港でリップクリームを買おうとしたとき、店員にこう言われたそうだ。

どのシリーズがあなたに合うか,調べてきましたか?え?わからない?それなら今日は買うのをやめたほうがいいわ。高価なものなんだから,全部試していたら,時間もお金も無駄になるだけよ(102頁)

また、著者が車を買おうと思って友人に相談したときの友人の回答もこうだ。

一.小さい車に乗ろうというのは偉い。なぜなら重量の軽い車は税金も安いからだ。
二.ただし,駐車場が狭いから小型車に乗るという理由は間違っている。運転に自信がないなら,事故に備えて大きな車に乗るべきだ。
三.オランダでオートマチック車に乗るのは,身体の不自由な人かお年寄り,そして日本人だけ。高いのは当たり前だ。
四.マニュアル車を操作してこそ,自動車に乗るだいご味がある。
五.できるだけ故障しないほうがいいが,多少の故障はその車の愛嬌だと思え。車も人間と同じなのだ。
六.いつか車を手放す気なら,そのときの価値を考えるべきだ。新車か中古車かはあまり問題ではない。
七.そもそも予算がいくらなのか,それすら決めずに人に相談することをキミはどう思っているのか。ボクは迷惑だ。
八.自動車を買えば,自動車保険に入らなければならない。それすらキミは知らないだろう。
九.わからなければいくらでも教えてあげるから,ひとりで決めずに相談すること。(116頁)

買う前によく調べて、よく考える。
自分もこれを実践するようになってから、買ったものについてあまり後悔しなくなったし、なぜそれを買ったのかを他人にも説明できるようになったような気がする。
やってみると、買う前によく調べてよく考えるというプロセスそのものがまた楽しい。
ここ最近買ったものでも、事前に調べて、よく考えてから買ったものは、なぜそれを買ったのかを説明できるし、後悔もしていない。
事前によく調べてよく考えれば、買い物で後悔することがなくなるのだ。
もちろん、状況が変わったり、考えが変わったりして、買ったものが不要になることはある。そんなときは、キレイに写真を撮って、メルカリで売れば良いのだ。

オランダ式こそが進むべき道

この本に書いてあるようなオランダ人の生き様が今も維持されているのかどうか分からないが、素晴らしいと思う。
これこそが進むべき方向だと思うし、現にその方向に進んでいると思う。
生き様を考えたい人にはオススメの面白い本である。