みんなが幸せになる社会を考える「なめらかなお金がめぐる社会」(by 家入一真)

この本は、クラウドファンディング「CAMPFIRE」の代表に復帰した著者が、今考えていることを語る本である。

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若者の世界観を理解するおっさん

この本の面白いところは、著者の立ち位置である。おそらく、著者は、上の世代の昭和っぽい世界観にも揉まれて、少し前からのITバブル世代的な価値観にもどっぷり浸かった立場にありながらも、その下の世代の価値観を理解して吸収していて、時代の変わり目の真ん中という絶妙なバランスの位置に意図せず立っているのではないかと思う。著者は1978年生まれで、若くして大成功を収め、その後、なんだかんだ色々あって今に至るらしく、そのような経験の結果そうなったのかも知れない。
本書の中の谷家衛氏との対談でも、そのような言及が出てくる。

くり返しになるけど家ちゃんの考え方とか存在が大好きで今の若い人たちが思い描いている世界観を、一番理解し、そして体現していると思うのが彼。(188頁)

著者も、自身がそのような時代の変わり目にいることに言及している。

「豊かになることが正解であり、幸せの近道であり、国も会社も個人も町もみんな豊かになっていこう」という価値観を持っているのは、おそらく僕たち76世代が最後の世代なんじゃないかと思う。(40頁)

こういう著者の立ち位置が、本書を面白くしている。

みんなが幸せになるためには

本書は、海士町という田舎の港町の話から始まる。この町は20代から40代の若い人の移住者が多いそうだ。移住者は、海産物をインターネットで販売したりして暮らしているが、必要以上に稼ごうとはせず、暇なときは朝から海を眺めてビールを飲んだりしながら、のんびり暮らしているという。
著者は、彼らの考え方に心を動かされる。

そして、何より僕の心を動かしたのは、この島で暮らす移住者たちが今のライフスタイルを手に入れるために、「自分はどんな生き方をしたいか?」という問いから逆算していることだ。(26頁)

著者は、人々が幸せに暮らしていけるにはどうしたらよいか、本気で考えている。
そして、人々が幸せになるためには、人々が、この移住者のように、自分のやりたいことをでき、自分の生きたいように生きることができるようにする必要がある、と考える。

幸せとは何かと考えたら「自分のやりたいことができる」ということなんじゃないか、と思う。だとすれば「いい社会」とは「各自が自由に、自分の幸せを追求できる社会」と言うことになる。(48頁)

資本主義のアップデート

ところが、現実は、やりたいことができず、生きたいように生きられていない人が多い。今の自分ではない誰かになりたい、ここではないどこかに行きたい、という思いに人生を振り回されている人がたくさんいるという。これは、行きすぎた資本主義であり、「穴」であるという。

ここで、「資本主義はダメだ!」論や、「お金なんて不要だ!」論に走らないのが、著者が大人で、すごいところだ。やりたいことをするためにはお金が必要であり、お金を得るための仕組みが必要だ。

多くの人は、人生の多くの時間を好きでもない仕事に費やすのか?
それは、お金生活費を稼ぐ手段がないと思い込んでしまう世の中があるからだ。
なぜ多くの人は、富や権力に取りつかれてしまうのか?
それは、富や権力は自己実現の可能性を広げる唯一の選択肢だと思い込んでしまう状況があるからだ。
なぜ多くの人は、大きなものに依存してしまうのか?
それは、自力で生きていくことは限られた強い人にしかできないと思い込んでいるからだ。人が生きづらさを感じる瞬間というのは、既存の社会にお膳立てされた仕組みや価値規範にフィットしないときに多い。
だから僕は選択肢を増やしたい。(141頁)

やりたいことができない現実を改善し、みんなが幸せになるために、選択肢を増やす必要がある。そして、選択肢を増やすためには、資本主義のアップデートが必要である、と著者は主張する。クラウドファンディングは、そのようなアップデートのための方策の1つだったのだ。

今の日本の資本主義における機会の平等は、まだ完全ではない。
そもそも競争を前提にしているし、その競争のスタートラインに立つことまでの平等はある程度実現しているけれど、そこも完璧ではない。そして、競争から一度脱落したら復活するのも大変だ。
こうした機会の平等の「穴」を一つ一つ埋めていくことが、良い社会を作ることだと思っている。その意味では、クラウドファンディングと言う新しい資金調達の仕組みは、かなりの数の「穴」を埋める可能性を持っている。(88頁)

著者がクラウドファンディングを立ち上げたのは、やりたいことをするための資金調達を容易にすることによって、人々の選択肢を増やし、もって人々を幸せにするためだったのだ。これこそが、著者のいう「なめらかなお金がめぐる社会」なのだ。

論旨は明快であり、著者が、本当に、人々、特に、今の社会に馴染めていない人々の幸せを真剣に考えていることがよく分かる。

ヒントになりそうなアイデア

なお、本書には、著者の思いつきがところどころに記載されていて、これもなかなか面白い。

常識を取り払ったマネタイズ

有料だったものを無料にするとか、もらうのではなく払うとか、お客からの支払い先をあえて自分にしないとか、日本円で貰わないとか。
そこにイノベーションを起こすアイデアが隠れている気がしている。(75頁)

某お店も、入店したら逆にお金ををもらえることにして、推しの人に歌ってもらったら店じゃなくて推しの人に仮想通貨を払う、っていうのはどうだろうか。

人生定額プラン

たとえば月3万円で衣食住がカバーできるような逆ベーシックインカム制度みたいなものだ。(94頁)

衣食住の食だけでも、学生街で月1万円で朝食食べ放題とか、オフィス街で月1万円でランチ食べ放題というのはどうだろうか。某ラーメン屋は、月3500円でシメのラーメン食べ放題というのはいけるかもしれない。

月々プラン

プロジェクトオーナーによっては月額で少しずつ集めたいと言う人もいる。例えばNPO等は、実は毎月の運営維持費を確保することの方が切実な問題であったりする。(148頁)

これはたしかにそのとおりで、自分が関わっているNPOも、定期収入がないから大変なようだ。世の中、賃金にしても家賃にもしても光熱費にしても、多くのものがマンスリーで回っているから、一度に多額を集めるよりも月額で少額を集めて回るようにしたい、というニーズは多そうだ。

次の社会のリーダー

性的マイノリティーの人たちって自分たちがさんざん傷ついてきているので、そこを乗り越えてきた人たちって、とにかく優しくて、強い。
それに僕ら一般人は、何かあったら社会の基準に合わせていけば何とかなるみたいな感覚がありますけど、彼らは社会の基準に合わせようがないので、一応立ち上がったら徹底的に自分に正直になって自分を表現するしかないんです。だからLGBTの人は魅力的な人が多い。僕はそういう人たちが次の社会のリーダーになるんじゃないかと強く思っているんです。(179頁)

なるほど、そうかも知れない。自分を振り返ってみると、まさに社会の基準のことばっかり

必読の書

このように、本書では、著者の真剣な考えやちょっとしたアイデアが様々語られている。
家入氏の行動や考え方に興味がある方ばかりでなく、幸せに生きたいと考える方、世の中を良くしたいと考える方、次の社会を考えるヒントを探している方などにも、おすすめの本である。