人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされた頭を冷やす「人口減少社会の未来学」(by 内田樹外10名)

この本は、人口減少問題についての論考を集めた論考集である。

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未曾有の人口減少問題という難問にどう対処すべきかを考えるにあたって、まずは衆知を集めよう、というのがこの本の趣旨であり、生物学者、経済学者、政治学者、建築家など、様々なジャンルの論者による論考が集められている。

この本を読むと、新たな視点や切り口で問題をとらえることができ、昨今の人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされた頭を冷やすことができる。

近年、ネット上でも書店でも、人口減少による絶望的な日本の未来をこれでもかと提示する悲観論があふれている。そのため、最新のニュースや書籍を追いかけている人ほど、絶望的な気分になってしまっているに違いない。

この本は、そのような最近の人口減少危機絶望悲観論にあおりにあおり倒され、打ちのめされている人におすすめである。

人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされた頭を冷やす

本書の編者は内田樹氏であり、論考執筆者は、生物学者の池田清彦氏、経済学者の井上智洋氏、地域エコノミストの藻谷浩介氏、実業家・文筆家の平川克美氏、保育士・コラムニストのブレイディみかこ氏、建築家の隈研吾氏、劇作家・演出家の平田オリザ氏、「東北食べる通信」編集長の高橋博之氏、コラムニストの小田嶋隆氏、政治学者の姜尚中氏である。

まさに様々なジャンルからの衆知を集めようという構成になっており、視点も切り口も様々である。

この本が特に有用な点は、普段あまり馴染みのないジャンルの論者の論考を読むことで、上述のとおり、人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされた頭を冷やすことができるところだ。

人はついつい同じようなジャンルのニュースや本を読んでしまうものらしく、人口減少による絶望的な将来を予言する記事ばかり読んでいると、絶望的な気分から抜け出せなくなってしまう。

それはそれで事実かも知れないが、ちょっと視野が狭くなってしまっている可能性がある。

この問題は、生物学者から見れば問題などないし、地域別の人口統計を追うエコノミストから見れば問題はすでに最終段階に到達しつつあるし、コラムニストのおじさんから見ればそもそも人口動態の将来予測は鵜呑みにするものではないようなのだ。

高齢者は全員死ぬし、人口もそのうち安定するに決まってる

生物学者の池田清彦氏の論考は、特に目覚まし効果が高い。

あと30年もすれば今の高齢者は全員死ぬので、高齢者が多いという問題は解消する。人口減少問題だって、今後も永遠に減り続けるわけはなく、どうせどこかで安定化するに決まっていし、さらに、外国からも人が来て、いずれ日本人化する、という。

巷では、日本のような人口減少社会では、少子高齢化にどう対処するかが喫緊の問題として取り上げられることが多いが、50年~100年というスパンで見ると高齢化はあまり問題ではないだろう。私は今70歳だが、あと30年もすれば、私を含めて現在の年寄りはほぼすべて死に絶えてしまうわけで、高齢に偏っている人口分布は解消されて、少子化と人口減少だけが残るだろう。(48頁)

このままでは日本人は絶滅するというアホなことを言う人もいるが、ある程度減少すれば定常状態になって安定するに決まっている。付言すれば、すでに述べたように、現生人類はすべて(アフリカを出立しなかった人々を除けば)、数万年前のせいぜい1万人くらいの人々の子孫なのだ。DNAの99.9%は共通で、ほとんどクローンに近い。日本人という生物学的な人種がいるわけではない。日本列島に住み、日本語を喋っていれば出自はどうあれ日本人なのだ。現在日本列島に住んでいる人たちも、様々な出自を持つ人々の混血の結果なのである。(70頁)

だったら、大して問題などないではないか。

人口減少危機絶望悲観論に一人で打ちのめされていた自分が馬鹿らしくなるに違いない。

田舎はもう行き着くところまで行って今後高齢者減り始めますが

地域エコノミストの藻谷浩介氏の論考も興味深い。

藻谷氏によると、今、高齢者が増えているのは東京を中心とした首都圏や大都市圏であり、田舎では、もう、高齢者の絶対数は減り始めるそうだ。

実際のところ、2010年→2015年に全国で増えた75歳以上人口213万人のうち、9人に1人が東京都での増加だ。これに埼玉県、千葉県、神奈川県を加えた首都圏一都三県では、75歳以上人口の増加は76万人となり、全国の36%、3人に1人以上となる。(112頁)

島根県は)高度成長期に一方的に若者を都会に出す側だったため、もはや「年寄りのなり手が少ない」状態で、遠からず高齢者の絶対数は減り始めると予測されている。(112頁)

要するに、東北や山陰など、高齢化が深刻だと思われている田舎の地域は、すでにもう行くところまで行っており、これ以上は高齢者は増えず、むしろ今後はどんどん高齢者が減っていく。若年者が増えるわけではないので高齢化率が低減するわけではないかも知れないが、すでに峠を越え、高齢者の増加による問題がこれ以上悪化する余地がなくなってきているようだ。

行き着く先が見えているのであれば、不安も低減されるというものだ。

逆に昭和20年代になぜあんなに多産だったのか

小田嶋隆氏の論考も面白い。

小田嶋氏は、そもそも、人口が減り続けるという人口動態予測のグラフが当たるとは信じられない、という。

1970年代には人口が増え続けると予測されていたが、半世紀後の現在、それがものの見事に外れている。だとすれば、今から半世紀後の2070年の日本の人口が、現在の予測の先にあるとは思えない、というのだ。

このことは、逆に考えて、昭和20年代のベビーブームの時代に、何が人々の多産を促していたのか、いまだに解明できないことと同じ文脈に属する話でもある。
なんとなれば、子供の預け先にしても、若いカップルの経済状態にしても、将来への見通しの明るさにしても、昭和20年代のそれらは間違いなく最悪だったわけで、その最悪の条件の中でどうしてあんなに劇的な出生率の向上を実現できたのかについては、結局のところ誰一人として答えを持っていないからだ。(255頁)

たしかに、昭和20年代生まれの人たちには、8人兄弟とか、10人兄弟とかがざらにいるが、どうしてそんなことが起こっていたのか、全然意味が分からない。

だとすれば、将来、説明不可能な劇的な出生率向上が起きないとは言い切れない。

考えても無駄なのかも知れない。これが反知性主義というヤツかも知れないが。

どれかひとつくらいは面白いはず

この本の論者は、編者の内田樹氏が寄稿を依頼したらしい。

編者も、論者も、有名で、炎上しがちで、テレビとか出て目立つ活動しがちで、読者の好き嫌いが別れそうな人に偏っているような気もするが、それはそれで面白い。

論者がバラエティに富んでいるので、なるほどと思える論考がひとつくらいはあるはずだし、もしひとつも無ければそれはそれで面白い。

人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされている人におすすめ

最近流行の、人口減少による絶望的な将来を予言する悲観論は、別に嘘でも大げさでもないのだろうし、それを見聞きして絶望的な気分になるのも間違ってはいないのかも知れない。

しかし、そんな人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされて生きていても楽しくない。

この本は、視野を広げたり、視点を変えたり、切り口を変えたりして、人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされた頭を冷やして考え直す機会を与えてくれるので、昨今の人口減少危機絶望悲観論に打ちのめされている人におすすめである。