とにかく走れ! 「脳を鍛えるには運動しかない!」(by ジョン・J・レイティ)
ジョン・J・レイティの「脳を鍛えるには運動しかない!」という本を買った。
この人は最近「GO WILD」という面白い本を出しているけれども、「脳を鍛えるには運動しかない!」は少し前の2009年ころに出た本らしい。もともとのタイトルは「SPARK」だったようだけど、日本語版のタイトルは「脳を鍛えるには運動しかない!」という説明的なものになってしまっている。「SPARK」だと内容が全く分からないので仕方がないか。
この本は、日本語版のタイトルどおり、運動が脳に良い影響を与えることを説明しているのだけれど、これを抽象論ではなく実験や調査に基づいて具体的に解説している。
結局、脳みそと身体は繋がっていて、脳が身体に影響を与えるのと同じように、身体も脳に影響を与えるのだ。そして、脳は、これまで考えられていたようにただ少しずつ死滅していくだけの消耗品ではなく、筋肉と同じように鍛えたり増やしたりできるものだったのだ。
学力、ストレス、不安、うつ、注意欠陥、依存症、加齢による認知機能の衰えなどといった脳が関係する問題は、すべて、運動することで改善できるという。
- 頭が悪い?じゃあ今すぐ運動しろ!
- ストレス溜まる?じゃあ今すぐ運動しろ!
- 不安だって?じやあ今すぐ運動しろ!
- うつだって?じゃあ今すぐ運動しろ!
- 注意欠陥障害?今すぐ運動しろ!
- 依存症だって?とにかく運動しろ!
- 妊娠した?運動しろ!
- 歳をとりたくたい?運動しろ!
- 運動!運動!さっさと運動!しばくぞ!
頭が悪い?じゃあ今すぐ運動しろ!
米国ネーパーヴィルで、授業開始前の0時間目に生徒にランニングなどのフィットネスをさせたところ、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)の理科のテストで世界1位、数学で世界6位という驚くべき結果が出たという。
運動すると、BDNF(脳由来神経栄養因子)などの神経化学物質が増えるらしい。これが何なのか説明はできないけど、シャーレに入れたニューロンにBDNFをふりかけるとニューロンが新しい枝を伸ばして成長するということなので、ニューロンの肥料みたいなものなのたろう。
20世紀には、ニューロンの量は生まれつき決まっていて、あとは減る一方だと言われていたけれども、それは誤りで、実際には増えることが分かったらしい。
そして、運動をすると、肥料となるBDNFが増えて、既存のニューロンも新生ニューロンもすくすく育つらしい。
学習するためには、一日中机に向かうのではなく、まずは運動すべきということらしい。身体はそういう仕組みになっているのだ。
元来、わたしたちは身体を動かすようにできていて、そうすることで脳も動かしている。学習と記憶の能力は、祖先たちが食料を見つけるときに頼った運動機能とともに進化したので、脳にしてみれば、体が動かないのであれぼ、学習する必要はまったくないのだ。(67頁)
ストレス溜まる?じゃあ今すぐ運動しろ!
ストレスは常に悪いものというわけではないが、ストレス過多の状態が長期間続くと、脳にも影響を及ぼす。コルチゾールが増加した状態が続き、ストレスに関係のない記憶が妨げられ、ニューロンが縮み、海馬も縮み、記憶を失い、腹に脂肪もたまる。我々の身体は石器時代と同じなのに生活は石器時代と全く異なるので、こういうことになってしまうらしい。
運動をすると、これを逆回転させることができる。ストレス耐性が高まり、ニューロンも回復し、海馬も大きくなり、腹の脂肪もなくなる。
微小細胞レベルから心理レベルまで、運動は慢性ストレスの悪影響を退けるだけではない。悪影響を逆転させることもできるのだ。(101頁)
ストレスが多ければ多いほど、脳をスムーズに活動させるには身体を動かす必要があるということを、ぜひ覚えておいて欲しい。(107頁)
不安だって?じやあ今すぐ運動しろ!
不安障害であれ、そこまでには至らない不安やパニックであれ、克服するにはとにかく運動すべきらしい。
運動することで、心拍数の増加や血圧の上昇、呼吸の激しさなどといった身体の状態が、必ずしも不安や危険と結びつかなかないものであることを学習できるとのことだ。また、運動すると、心筋から心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が分泌されるが、ANPには鎮静効果があるらしい。
ある実験で、パニック障害の患者を、A.定期的に運動をするグループ、B.クロミプラミンという抗うつ剤を毎日服用するグループ、C.毎日プラセボを摂取するグループ、の3つのグループに分けたところ、10週後にはABともに同様の効果があり、さらに6か月後の追跡調査ではAの運動グループが最も不安値が低かったらしい。つまり、運動は、薬と同等以上の効果があるということだ。
不安に悩まされているならとにかく運動すべき。
有酸素運度は不安障害のどんな症状も大幅に和らげることを数多くの研究が示している。(119頁)
うつだって?じゃあ今すぐ運動しろ!
うつ病であれ、軽いうつな気分であれ、改善するには運動すべきらしい。
運動は深刻なうつから軽いうつまで、すべてに効くのだ。(145頁)
有酸素運動はうつの症状全般に効く。(146頁)
うつ病の患者156人を3つのグループに分け、ゾロフトというSSRIを服用するグループ、週3回30分走るグループ、両方を行うグループ、の3グループに分けたところ、16週間後、3グループとも症状が大幅に改善し、いずれのグループでも半分は完全に症状が消えたらしい。運動すれば薬がなくても同じじゃないか。
また、うつ病の患者を、激しい運動をするグループ、軽度の運動をするグループ及びストレッチのみのグループに分けた実験では、激しい運動を課されたグループは週に平均1400kcal消費したが、うつの度合いを示す数値は半減したらしい。軽度の運動のグループの消費カロリーは週に平均560kcalだったが、結果はストレッチのみを行ったグループと同じだったとのこと。この結果から、体重1ポンド(0.45kg)あたり8kcal以上を消費する運動をすべきとされている。体重70kgだったら1244kcalだ。
運動は体によく、(ある程度までは)すればするほどいい、ということだ。(175頁)
注意欠陥障害?今すぐ運動しろ!
運動は注意欠陥にも効果があるとのこと。
注意欠陥・多動障害(ADHD)は、ドーパミンとノルアドレナリンを増やすと落ち着くようになるらしいが、運動をするとドーパミンとノルアドレナリンが増えるので、ADHDに効果があるらしい。
本当のことを言えば、誰でもある程度は注意欠陥障害があり、どの方法が効くかは自分で試さなければならない。効果が出る仕組みがわかっていれば、おそらく最高の解決策を自分で見つけられるはずだ。もし、最低限度を知りたいのであれば、有酸素運度30分というのがわたしの答えだ。そんなに長くないはずだ。それで1日の残りの大半を集中してすごせるというのであれば。(209頁)
依存症だって?とにかく運動しろ!
運動は依存症にも効果がある。
依存症の人は、依存の対象を断つと、空虚な気持ちになり、うつや不安が残る。しかし、すでに述べたように、運動はうつや不安に効果がある。
また、運動はストレス耐性を上げるので、ストレスのせいで依存対象に依存してしまうことも防げる。
さらに、依存によって脳に生じたダメージも、運動することで回復できるらしい。
妊娠した?運動しろ!
妊娠中に運動してはならないというのは過去の迷信で、運動すると、妊婦にも胎児にもいいらしい。産後うつ?すでに述べたとおり、うつには運動が効果的だ。
歳をとりたくたい?運動しろ!
歳をとること自体は防ぐことはできないが、できればハッキリした頭を維持したい。
40歳を過ぎると、脳はなんと平均して10年に5%の割合で減っていくらしい。恐ろしや。
ここでも、運動によって脳を維持することができる。
ある調査では、活発に運動していたグループは、老後に能力が衰える確率が20%低かったらしい。
運動は老化の進行を阻むことのできる数少ない方法のひとつだ。(280頁)
また、普段あまり運動をしない高齢者に週3回1時間ずつジムで運動させたところ、なんと前頭葉と側頭葉の皮質容積が増えたらしい。脳は増えるのだ。
歳をとってからでも運動をすれば、脳の衰えをふせぐだけでなく、逆に脳を成長させることもできるのだ。
運動!運動!さっさと運動!しばくぞ!
これだけ運動が脳に良い影響を与えることをとうとうと説明されると、もう運動せざるを得ない。
今後しばらくは我が家のトレッドミルが大活躍しそうだ。